相続分の譲渡
遺産分割は、相続人全員の協議で決めなければなりません。
例えば相続人4人(ABCD)の内1人だけ(D)が、意見が違って協議がまとまらない、あるいはそもそも話し合いの場に出て来ようとしないといった場合、遺産分割はできず、各種の相続手続きもできなくなってしまいます。
そうすると家庭裁判所に遺産分割調停を申立てるなどの手続きを取らざるを得なくなります。
その様な状況で、ABCの間では、全てAに相続させる事で話がついていて、BCとしてはこれ以上面倒な事に関わりたくもないと思っている場合も多くあります。
この場合には、BCは自分の(法定)相続分をAに譲渡する事で、この紛争から離脱することができます。
ABCDそれぞれの法定相続分が1/4ずつである場合、BCがAに相続分を譲渡すると、Aが3/4、Dが1/4の相続分となり、それを前提にAとDで遺産分割手続きを進めていけば良い事になるのです。
相続分譲渡の方法や取戻しなどについて、以下に掲載しています。
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相続分譲渡の方法
1.相続分
上記の通り、相続分の譲渡は、遺産分割協議が難航している場合に補完的に利用されるのが通常です。
ここでいう「相続分」は、相続財産全体に対するその相続人の法定相続分の割合をいい、個々の財産ごとの持分をいうのではありません。
そのため、相続財産のうち「あそこの土地の持分だけ譲渡する」という事はできず、それは遺産分割として行うことになります。
2.譲渡の時期
相続分の譲渡は、遺産分割が成立する前に行わなければなりませんので、相続財産のうちの個々の財産についての持分や所有が決まった後はできません。
3.譲渡相手は、相続人以外でも可能
譲渡する相手は、他の相続人でも、相続人以外の第三者でも構いません。
通常は上記例の様に相続人の間で行われますが、相続人以外の第三者に譲渡した場合、遺産分割協議にはその第三者が参加する事になります。
第三者に譲渡する必要のある状況というのはあまり考えにくいのですが、上記の例でABCDのうちBが第三者Xに譲渡し、Cが第三者Yに譲渡すると、AXYDで遺産分割協議していくという事になります。
ただし、第三者に譲渡した場合、後記のとおり、相続人は相続分の取戻しを請求する事ができます。
4.贈与も可能
譲渡は、売る事も、無償で贈与する事もできます。
また、口約束でも成立しますが、不動産の名義変更や預貯金の相続手続きでは、書面(実印を押印して印鑑証明書を付ける)が必要となります。
相続分の取戻し
民法905条は、「共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる。」として、第2項で、「前項の権利は、一箇月以内に行使しなければならない。」としています。
実は、民法に「相続分を譲渡することができる」という規定じたいは無く、この規定の前提として可能であると解釈されています。
そして、相続分が相続人以外の第三者に譲渡され、遺産分割協議に、身内でも無い赤の他人が入ってくる様な事になると、他の相続人にとって遺産分割協議が困難になる状況も生じえます。
そこで民法は、相続人に、譲渡された相続分を取り戻す権利を与えました。
ただし、相続分を取戻すためには、相続分の譲渡から「1ヶ月以内」に行使する事と、「その価格及び費用」を支払う事が必要です。
相続分を譲渡する場合、通常、他の相続人に知らしめるために譲渡の通知をしますので、その通知を受けから1ヶ月以内に行使する必要があります。
また、相続分の譲渡がたとえ無償の贈与であったとしても、取り戻すためには、相続分の相当価格(時価)を支払う必要があります。